只ならぬ不条理映画「籠の中の乙女」☆ヨルゴス・ランティモス監督にぞっこん

このところブログもグルメブログみたいになってて、すっかり映画から遠ざかっている私。
酷暑に阻まれ、なかなか映画を観に出掛けるモチベーションが上がらない。
しかも配信でも食指を動かされる作品になかなか出会えなかったのが、先日見て面白かった「聖なる鹿殺し」があまりに独特で、それからヨルゴス・ランティモス監督のファンになってしまったのだった。

彼が監督をした4つの映画の中から私が観た事のある「女王陛下のお気に入り」以外で、配信が無料になっていた作品を発見したので早速鑑賞する事に。

「籠の中の乙女」(2009年)ギリシャ 公式サイト
カンヌ国際映画祭「ある視点部門」でグランプリ、アカデミー賞外国映画賞ノミネート作品
籠の中の乙女.jpg
邦題は『乙女』となっているけれど、原題は「Dogtooth」 つまり犬歯=牙。
「聖なる鹿殺し」でもそうだったように、ヨルゴス監督はギリシャ神話をモチーフに作品を作っている。
猟師のアクタイオーンは女神アルテミスの裸身を見てしまったことから、鹿に姿を変えられてしまう。
そしてアクタイオーンは飼っていた猟犬にかみ殺されてしまうのだった。

そう!つまりこの話は『飼い犬に手を噛まれる』というお話なのだ。
Clipboard0197545.jpg
ギリシャの郊外の豪邸に暮らす一家。
厳格な父は外部の汚れたものから家族を守るために、特別なルールで子供たちを育てていた。
外界から一切情報を得ることなく純真無垢に育った3兄弟は、青年期に差し掛かり息子の「性処理」のために連れてきた外部の人間から、少しずつ外の様子を知ることになる。
平和だった暮らしのバランスが崩れ始め、ついに長女は・・・

Clipboard01645654.jpg
写真を見ての通り、好奇心旺盛な長女・優しい長男・従順な次女とも結構な青年なのである。
しかしやっていることは、まるで3歳児~小学生3年生くらい。
父は何かと子供たちを競争(広いお庭の広いプールで長く潜れるか競争とか、目隠しをして誰が一番早くお母さんの居るところまで行けるか競争とか)をさせ、一番を取るとご褒美にシールが貰えるシステム。
上空を飛ぶ飛行機は、たまに庭に落ちてくる飛行機のおもちゃだと信じていて(母がこっそりおもちゃを庭に投げる)、それを取り合って姉弟が喧嘩する様子は、まさに小学生そのもの!
籠の中の庭.jpgテレビも見ない、本は救急救命などが書かれた医学事典(?)のみ、母が吹き込んだ奇妙なテープレコーダーだけが唯一の勉強になっていて、テーブルの塩を「電話」と呼んだり、プッシーって何?と質問すると「黄色いお花のことよ」と説明する。

子供たちはともかく、母親は何故こんなにも夫に従順なのか?とか、いよいよ大人になってこの先子供たちをどうするつもりなのか?とか様々に無理がある話なのだけれど、あまりの「異様さ」と「不条理」にだんだん有りなのか?と思えてくるから不思議。
Clipboard017878787.jpg
息子の「お相手」としてお金を渡して連れてくる会社の部下に、長女は興味深々。

庭に入って来た猫を「人間を襲う恐ろしい化け物」として撃退するために、四つん這いで吠える練習をさせたり、懲罰でリステリンを口に含んで「よし!」と言うまで我慢させたり、威圧的で暴力的な父親が物で人の頭をぶん殴るなど、父の教育はまさに犬の調教なのだ。
そしてこの映画には「舐める」シーンが多く登場する。
部下の女性の要求に応えて「舐めて」あげることで、自分の知らない世界=欲しい物(ジョーズやロッキー、フラッシュダンスのDVD)をゲットする術を覚えた長女、その長女を舐めて甘える次女。もう犬そのものだし。
事実姉弟たちに名前が無い。ドッグトレーナーに預けている犬には名前があるのに・・・
kagonaka.jpg
画面いっぱいのモザイクがかかる性描写にしても、部下の女性を連れてくるのを止めて「お相手」を姉妹のどちらにするか決めるよう促す両親など、不条理極まりない。しかし思えば神話だけでなく古代ギリシャなどでも近親婚などが当たり前の様に登場するわけで・・・

ただ冷静になって考えると、自分の子供を名前でなく「おねえちゃん」「お兄ちゃん」呼んだり、親が勝手に決めたルールで厳しく育てたりする姿は、誇張しているけれどある意味どこの家にもあるもので、そう言った暗喩が含まれていると思うと冷ややかな目で見る事は出来なくなってくる。

父親の車のトランクに隠れて脱出したはずの長女が、物音も立てないラストのシーンはどう考えたらいいのか?是非見た人と語り合いたい!
奇妙なダンス(フラッシュダンスの完コピらしい)の不気味さ、細かく説明しない不親切さ、気持ち悪いくらいの不条理さが癖になる不条理サスペンスコメディ。
もうヨルゴス監督にすっかり取り込まれてしまった私なのだった。

"只ならぬ不条理映画「籠の中の乙女」☆ヨルゴス・ランティモス監督にぞっこん" へのコメントを書く

お名前
ホームページアドレス
コメント