「楽園」☆圧倒的に息が詰まる凄い邦画

実際に起きた事件をモチーフにしているから息が詰まるのではない。
目に眩しい青々とした田んぼが広がり、見渡す限り高い建物が一つもない青空がどこまでも続く広々とした緑豊かで楽園のような地域に根付く、息が詰まるような狭い限界集落の生活。
冒頭の景色でこの二つを見事に対比させ、大自然のなかで胸いっぱい深呼吸をさせない展開が実に秀逸なのだ☆
(ネタバレを含みます)
楽園ポスター.jpg
「楽園」 公式サイト(10月18日公開)
12年前、のどかな集落のY字路で別れた友達の愛華ちゃんが行方不明になってから、ずっと負い目を感じて生きてきた紡(杉咲花)は村を離れ都会で暮らす決心をする。
唯一心を通わせる事が出来たのは、子供の頃外国から村へやってきた毅士(綾野剛)だけで、互いの不遇を静かに共感し合っていた。
紡が村の祭りの手伝いを頼まれ帰省した夏祭りの夜、12年前と同様Y字路で子供が行方不明になり、犯人では?と追い詰められた毅士はパニックになり焼身自殺をしてしまう。
騒動を目撃していたUターン組の善次郎は村の長老たちと揉めたことから、次第に正気を失っていく・・・


人格者であった愛華の祖父も、罪のない紡を責める事でしか孫を失った不運を乗り越えられなかった。
楽園罵倒.jpg
原作は「悪人」「怒り」の吉田修一の実際の事件をモチーフにした短編を集めた「犯罪小説集」
犯罪小説集 (角川文庫)
犯罪小説集 (角川文庫)
この映画は5つの短編の中から足利事件をモデルにした「青田Y字路」と山口連続殺人放火事件がモデルの「万屋善次郎」の2編を合わせたつくりになっているのだけれど、正直この2つの重たい事件は実話だけに、簡単にくっつけてしまうのも、短編で描いてしまうことすらどうか?と思ってしまう。

しかしこの映画のテーマは事件そのものではなく、あくまでも『狭苦しい村の生活』にあると言う点で映画は実に見事に成功している。
楽園横笛.jpg
ふとしたきっかけで紡は自分が抱えているものを毅士に吐露し、二人は共鳴し合うのだが…

所々詰め込みすぎからくる説明不足で、?となる部分もある。実は「悪人」も「怒り」も一般的な評価ほどは気に入ってなかったので、やっぱり吉田修一とは相性悪いのかな?と思ったりも…
それでもあれ?ホラー観てるんだっけ?と思うくらい『不穏な空気』を映像と演技力だけで伝える力量がスゴイ!(怖いシーンは無いんだけど)

楽園蕎麦屋.jpg
母の目の前で毅士は焼身自殺を図り…

真の犯人であったかどうか謎のまま、12年前の事件の真犯人が死んだということにして村の人も愛華の祖父も事件に見切りをつけるという心理は、誰か立場の弱い者に責任を負わせて真相はともかくスッキリしたい人間の業を感じてならない。
この構図は事件云々と関係なく、誰にでも思い当たる事として心にずっしりと突き刺さった。
楽園村八分.jpg
犯人が「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」と自宅の窓に貼っていた連続放火殺人事件は記憶にも新しい。
親の介護で帰省して村の年寄りたちから良いようにこき使われていたのに、村おこしのトラブルから村八分になってしまい精神を病んでいくところとか、家の周りに謎のマネキンを飾るところなど原作も真実もほぼ同じらしい。
善次郎が追い詰められていく様子はもう少しじっくりと描いて欲しかったけれど、何しろ善次郎役の佐藤浩市が素晴らしい!!目だけで死ぬ瞬間を演じられる世界一の役者かも!
楽園惨事.jpg
そして事件は起きてしまう…
日本全国にある老人だけの限界集落、自分の胸にも手を当てて考えたい「ちょっと他と違う人を皆でハブる人たち」

毅士が言う「どこに住んでもいっしょだよ。」 そして望んでいた都会暮らしでも、結局心を閉ざして生きている紡。
限界集落の閉そく感を語りつつ、良い感じに希望を持たせようと無理やり持っていったようなラストがあんまり好きじゃなかった私。
原作同様、真相を描いたラスト(映画の場合は紡が思い出した?当時の記憶)でぷっつり終わるのも良かったんじゃないかな~


ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

2019年10月04日 23:51
まだ~むさん、こんばんは。
吉田修一さんの「犯罪小説集」は読みました。
短編集ですが、それぞれ実在の事件をもとにしていて
読み応えがあっておもしろかったです。
映画化すると聞いた時に、どういうスタイルにするのかしら?オムニバス?
と思ったら、Y字十字路と万屋善次郎を合わせた作りになっているのですね??

それぞれ偏見と、村社会という日本の閉鎖性を浮き彫りにした事件なので
社会派作品としても見応えがありそうです。
ノルウェーまだ~む
2019年10月05日 00:28
>セレンディピティさん
>
「犯罪小説集」お読みになられたのですね?!
私は未読ですが、今回ネットで大まかにあらすじを調べたら面白そうなので今度読んでみたいと思います。
映画的にはかなり社会派で、その点でも見事でした。
ただ「悪人」のときも「怒り」の時もラストがどうしても好きになれなくて…どちらも原作を読んでいないので、監督のせいなのか、はたまた原作のせいなのか??
今回もラストがちょっとだけしっくりきませんでした。
ごみつ
2019年10月06日 01:35
こんばんは。

これ面白そうですね~。凄く見たいです!

私、今のところ吉田修一さんの作品に縁がなくて、本も、映画も見た事がないんですよね。
近いうちに「悪人」とか映画だけでも見てみたいです。

「つけびの村」は本にもなってますよ。うちの店で著者の方の講演会もやりました。これも読んでみたいと思ってます。

ところで今日「ジョン・ウィック2」を見ました!面白かったです。「パラベラム」見たら、またコメントにおじゃましますね~。( `ー´)ノ
ノルウェーまだ~む
2019年10月06日 15:19
>ごみつさん
>
「楽園」はきっとごみつさんも好きだと思います!
私途中まで、これ!今年の邦画ナンバーワンだ!!と思っていたのですが、最後がちょっと…ただし他に良い邦画思いつかないので最終的にこれが一番かもデス(笑)

「つけびの村」は近日中に読む予定にしてます♪
ジョン・ウィックは午後ローで1と2を直前に続けてやってくれたのが嬉しかったですよね☆
2019年10月19日 23:51
『悪人』『怒り』は李相日監督と吉田修一先生の化学変化が見事だっただけに、本作はまだ吉田修一先生と瀬々敬久監督の化学変化が未完成かな?と感じました。詰め込み過ぎの説明不足と感じたのもそういうことかなと。

でも綾野剛、杉咲花、佐藤浩市。この3人の希望を見出せない辛さが素晴らしい。

だからこそ、あのラスト、私は希望を持つかどうかは本人次第だと思いました。心を閉ざしていた紡が前へ進む道を選んだのは、彼女が罪悪感という過去から希望という未来へと歩み始めたと。
ノルウェーまだ~む
2019年10月20日 00:11
>にゃむばななさん
>
確かにそうですね~
都会でも地元でも希望を見いだせずにいた紡が、ただ「生きる」ことの素晴らしさに気付いて希望を見出すラストは実はとても素晴らしい事かもしれないです。

なるほど、監督との相性ですかね?
ただ、私「悪人」も「怒り」もちょっとラストが好きじゃないのです・・・

この記事へのトラックバック